《 第2章 輪郭のない桜色 紗愛 前編 》

学生生活の終わり、春の気配に、紗愛の気持ちはまだ追いついていなかった。
——期待と不安が混じるその季節、彼女はまだ、自分の輪郭をつかめずにいる。

春が来た、と言われても、
まだ実感はなかった。

始まったばかりの毎日と、
期待されている、という空気。
それだけで、胸の奥が少し重くなる夜。

クローゼットの奥に、
淡い色が、ひとつ。

理由ははっきりしない。
ただ、
今はそれに触れたくなった。

——“輪郭のない桜色”が、
紗愛の夜を静かにほどいていく前編の物語。

静かになる前の夜

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春が来た、と言われても、
正直、まだ実感はなかった。

昼間の気配をそのまま連れて、
部屋に戻ってきたような夜。
期待されている、というだけで、
胸の奥が少しだけ重くなる。

玄関に並んだパンプスを見て、
明日のことを考えるのをやめた。
まだ足に馴染まないまま、
きれいに揃っているのが、
かえって落ち着かなかった。

灯りをつけた部屋は静かで、
音といえば、
自分の呼吸くらい。

何かを考えようとすると、
言葉になる前にほどけてしまって、
そのまま考えるのをやめた。

クローゼットを開ける。
着慣れないスーツの奥に、
淡い色がひとつ、挟まっている。

いつからそこにあったのか、
正確には思い出せない。
かわいいと思って選んだわけでも、
誰かに見せるつもりでもなかった。

ただ、
今はそれに触れたくなった。

指先にやわらかさが伝わって、
それだけで、
胸の奥が少しだけほどける。

胸がざわつくと、
首元に手がいきそうになる。
今日は、それを途中でやめた。

理由を探すのも、
自分を励ますのも、
今は違う気がした。
ただ、
静かにしていたかった。

受け取ったばかりの真新しい社員証を、
机の上に裏返しで置いて、
私は静かに灯りを落とした。

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紗愛がクローゼットにそっと置いていたベビードール。

淡桜ピンクのフリルレースベビードールを着用した女性。やわらかな光の中で、軽やかなシルエットと上品なレースが印象的なデザイン。

Quiet Blush Babydoll

夜にそっと寄り添う桜色

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