《 第1章 雪乃 空白の白 後編 》

初めてベビードールを身にまとった夜、冷えていた心に静かな温度が戻っていく。
——誰のためでもない、その灯りが雪乃をやさしく前へ進めていく。
12月に恋を終えた雪乃が、この白に出会うまでの物語 ――前編はこちら →

休みの日の朝。

目を開けると、
窓の向こうで雪が静かに降っていた。

白い粒が、
世界の音をひとつずつ覆い隠すように落ちていく。
遠くの気配も、時間の流れも、
すべてがやわらかな白に溶けていく朝。

まだ温もりの残る布団の中で、
雪乃はしばらく動けずにいた。

失ったものを思い出しているわけでもない。
何かを決めようとしているわけでもない。

ただ、
胸の奥に残った空白が、
昨日よりも少しだけ違う形をしていることに気づいていた。

——その静かな白が、
雪乃の内側を、ゆっくりと満たしはじめていた。

白が満ちていく朝

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休みの日の朝。
目を開けると、窓の向こうに静かな雪が降っていた。

白い粒が、
世界の音をひとつずつ包み込むように落ちていく。
その静けさが、まだ温もりの残る布団と混ざり合って、
雪乃を動かさない。

布団から抜け出す気力はなかった。
ただ、手探りでスマホを取って、
いつものアプリを開く。

クリスマスの前夜、彼氏と静かに別れたあの日から、
雪乃にはひとつの「習慣」が生まれていた。
あの白を、無意識に開いてしまう朝。

指先で画面をなぞると、
白いベビードールのシルエットが浮かび上がる。

サテンのひだが光を吸い込み、
その奥でわずかな温度が揺れている。

——きれいだな。

呟いたわけではない。
でも胸の奥で、確かに言葉が生まれた。

前は、ただ眺めるだけだった。
画面越しに“触れられないもの”として見ていた。

けれどこの朝の静けさは、
雪に吸われる音のない世界は、
その白をいつもより少しだけ近く感じさせた。

「もし、着たら——どんな気持ちになるんだろう。」

初めて、そう思った。

布団にもぐりながら、雪乃は何度も写真を拡大する。
肩に落ちる薄いレース。
胸元のゆるやかなカーブ。
光が集まって消えていく、柔らかな白。

見るたびに、胸の奥に
小さな灯りが生まれて、ひらいて、また閉じていく。

——着てみたい。

その気持ちは、押し込めてもすぐに浮かんだ。
まるで、雪が降り積もるように。

しばらく悩んで、
雪乃はそっとブラウザを開き、
商品ページを何度もスクロールした。

白、桜色、薄紫、黒——
どれも美しい。
でも今の自分には、
どうしても“白”しか考えられなかった。

静かで、
傷つけなくて、
ただそばに寄り添うような白。

スッと息を吸い、
雪乃は画面にそっと指を伸ばした。

「カートに入れる」

指先が軽く震えた。
でも、恐怖ではなかった。
空白が自分の意志で満たされていく、
あたたかい予感のような震えだった。

「購入する」を押した瞬間、
雪乃の胸の奥で
静かな波紋が広がった。

その夜、雪は止み、
玄関の前に小さな段ボールが届いた。

箱を開けると、
薄い紙に包まれた純白が、
まるで息をしているかのようにたたずんでいる。

そっと広げてから、雪乃は着替えた。

鏡の前に立つと、
淡い光がサテンにやさしく集まり、
まるで白そのものに抱かれているようだった。

胸元が温かい。
肩に落ちるレースが、
ふわりと心をなでるようだった。

泣きそうではない。
でも、胸の奥がじんわりと満たされていく。

——こんなやさしい白が、わたしの中にもあったんだ。

そう思えた。

ベッドに横たわると、
白い布のやわらかさが
雪乃の心に静かに溶け込んでいった。

空白だったはずの場所に、
小さな体温が灯っていく。

その温度に包まれながら、
雪乃は静かに眠りについた。

▶ 第1章 雪乃 空白の白 前編 を読む


雪乃が、物語で購入したベビードール。

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白の静寂
光を乱さない、やわらかな色

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Milky White Doll – with Robe

白の静寂
包まれることで、完成する白

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