《 第2章 輪郭のない桜色 紗愛 後編 》

社会人1年目の朝、張りつめた毎日のなかで、うまく呼吸ができない時間が増えていく。
——夜だけが、紗愛をそっと元の場所に戻してくれた。
期待されているというだけで、胸の奥が少しだけ重くなる。――紗愛の3月を描いた前編はこちら →

望まなくても、
朝はいつも通りやってくる。

慣れ始めた道と、
置いていかれたままの気持ち。
それを抱えたまま、
一日が静かに過ぎていく。

夜になって、
ようやく鍵を閉めたとき、
今日が終わったとわかった。

——これは、
紗愛が自分の夜に戻ってきた、
“輪郭のない桜色”後編の物語。

戻ってきた夜

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望まなくても、朝はいつも通りやってくる。

カーテンの隙間から入る光が、
考える前に身体を起こしてしまう。
昨日の続きみたいな顔で、
また一日が始まる。

駅までの道は、
もう迷わなくなった。
それなのに、
胸の奥だけが置いていかれている気がする。

仕事の時間は、
いつも緊張していた。
誰かの声に呼ばれて、
返事をして、
それだけで精一杯になる。

周りはちゃんと進んでいるように見えて、
比べないようにしても、
視線は勝手に動いてしまう。
名前を呼ばれるたびに、
少しだけ背中が強ばった。

夜になって、
ようやく家に帰ってきた。

鍵を閉めた音が、
部屋に大きく響いた。

それで、
今日が終わったとわかった。

靴を脱いで、
鞄を床に置いて、
それだけで肩の力が少し抜けた。

部屋の灯りはつけないまま、
クローゼットを開ける。
一日の中で、
ここだけがまだ急かされていない気がした。

着慣れないスーツを脱いで、
クローゼットにしまうと、
奥には、あの淡い色がある。

昨日と同じ場所に、
何も変わらず、置いてあった。

理由は考えない。
考えようとすると、
それだけで疲れてしまう。

指先が触れた瞬間、
身体が先に反応した。
張りつめていたものが、
言葉になる前にほどけていく。

やわらかな布に包まれて、
ようやく息が深くなる。
ここでは、
何も証明しなくていい。

鏡を見る気にはならなくて、
そのままベッドに腰を下ろした。
胸がざわつくと、
首元に手がいきそうになる。
今日は、
それを途中でやめた。 この夜は、
ちゃんと戻ってきた夜だと思えた。

▶ 第2章 輪郭のない桜色 前編 を読む


紗愛がクローゼットにそっと置いていたベビードール。

淡桜ピンクのフリルレースベビードールを着用した女性。やわらかな光の中で、軽やかなシルエットと上品なレースが印象的なデザイン。

Quiet Blush Babydoll

夜にそっと寄り添う桜色

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